魔王
その笑みは恐ろしく冷たく、今まで喧嘩していた二人は思わず背筋を凍り付かせた。

「…あ、あら悠楽!帰ってきたならただいま位言いなさいな」

「言ったさ何回も。アンタらが気づかないお陰で俺のイライラ度数は記念すべき100越えだ」

悠楽母がうわずった声で言い終わるか言い終わらないかのタイミングで、悠楽が言葉を被せる。

一見静かなその声音には、有無を言わさぬ強さがあった。

「…えと、すまなかったヨ悠楽。という訳でお詫びにお父さんと一緒にお風呂にぶォホァッ!!」

「気色の悪い戯れ言を抜かすな」

言葉と共に、悠楽の握り固められた拳が悠楽父の腹部に叩き込まれる。

悠楽父は空気を声にならない声と共に吐き出すと、そのままその場にうずくまり、何も言わなくなった。

「気分を害した。部屋にいる」

悠楽は父に一別くれると、自室へと足を向けた。

リビングには、立ち尽くす悠楽母と腹をおさえてうずくまる悠楽父。

…無言だった。

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