誰を信じる?(ショートショート)
「それ、いつの話!?(笑)」
 綾乃の笑いも構わず、桜木は強引にジーパンのボタンに手をかけてくる。
 桜木のレイプじみたセックスは今に始まったことではない。彼がセックス慣れだした頃には、何故かこんな様になってしまっていた。どうにか躾直さなければと思いながらも、ついつい2年半、そのままにしてしまっている。
 桜木とのセックスが心底気持ちいいと思えたことは、今のところない。いつも、力任せで、強引で、レイプさながら。たまに、「僕が気持ちよくしてあげるからね……」とキュンとなるような言葉を遣う男が羨ましくなるが、桜木自身をそう仕上げるも、なにも、自分自身の努力にかかっている、と綾乃は思っているのである。
「ねぇ……気持ち良かった?」
 事後、なんとか椅子に腰かけ、桜木を気遣う。
「うん」
 このときくらい、桜木が素直なことはないだろう。
「おなか、いっぱいだね(笑)」
「動いたのに、いっぱいになるはずない」
 桜木にはこの手の冗談も通じないし、彼自身が冗談を言ったことも、ない。
「今からまたなんかするの? ねぇ、一緒にテレビ見ない?」
「テレビ見ると酔う」
「じゃあ一緒にお風呂入ろ?」
「……後で1人で入る」
 桜木は着ずれを直して後ろを向くと、そのまま自室に向かい始めた。
「……ねぇ、私のこと、嫌いなの?」
「……嫌いって?」
 彼はこちらを振り返って聞いた。
「好きなの? 好きじゃないの? 愛してるの? 愛してないの?」
「そんな一辺に聞かれても……」
「覚えられるでしょ!?」
「好きか、好きじゃないか、愛しているか、愛していないか、とは、あんまり意味のない質問のような気がする」
「……そだね」
 桜木は他の男とは違う。最初はそれが、珍しくて、面白くて、楽しかった。
 だけど最近、何を考えているのか分からないときがある。桜木にとって、この結婚はどんな意味があったのだろう。
 そういえば、桜木の口から愛情らしい言葉を聞いたことがない。一方的に綾乃の方が押し付けるという手段でここまで来たが、本当にそれでよかったのだろうか。
(私、欲求不満なのかな……)

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