短編集
1*まさゆめ
小さい頃からよく見る夢で、あたしはいつも同じ家の中にいる。
知らない家なのに何故か安心してしまう不思議な家。
そして、いつもその家の庭で一人の男の子と遊ぶの。
夢の中の彼は、現実のあたしの成長と共に成長していくらしい。
今では小さな男の子ではなく、頼りがいのある男子高校生になった。
悩み事がある時には必ずこの夢を見て、必ず彼に会える。
彼は静かに話を聞いて、そっと微笑みながら頭を撫でてくれた。
父子家庭のあたしは、父親の仕事で転校が多く仲良しの友達がいなかった。
それでも寂しく感じなかったのは夜に会える彼がいたから。
あたしは夢の中の彼に恋をしている。
たとえ叶わぬ恋だとしても、彼以外にこんな気持ちを抱くことがないから……。
「沙織、って言うんだよね?」
見慣れない制服を着た子が話し掛けてきた。
水色に近い青のチェックのリボンとスカートは初めて見る。
「うん、三原沙織。あなたは?」
「あたしは前川香奈。青森から転校してくるなんて珍しいね」
前川香奈という名前の子は少し茶色がかった髪をしていて、アジア系じゃないハーフな顔立ち。
転校初日は大体みんな話し掛けてくる。初日だけだけど。
「お父さんの転勤先が京都だったから」
「そうなんだ。じゃあ沙織にとって京都で初めてのお友達になりたいな!」
無愛想気味に返事をするあたしに構わず、にこにこと話す彼女を好きになれる気がした。
またいつ転勤になるかわからないけど、今回は長期らしいから少しは仲良くなれるかな。
得意じゃない笑顔を香奈に向けてこちらこそ、と伝えると本当に嬉しそうに香奈は笑ってくれた。
香奈との出会いが、あたしの片想いに終止符を打つきっかけになったんだ――…。