月とバイオリン
 身を傾けて、シェリーはメアリーアンの顔を覗き込むように見上げた。

真っ直ぐに向かってくるブルーに、諦めるような気持ちが走る。

嘘をつくつもりはなくとも、ありのままを明かすことに躊躇いを覚えていたのだ。

不甲斐ない事実と、それを話すことを迷う気持ち。

重ねて情けない。できるものなら自分を殴り飛ばしたいと思いながら、だからこそ明瞭にメアリーアンは語り始めた。

「知っていたわ。ウィリアムには先生のお宅で会ったこともあったの。彼の不幸については、先生から聞いていたのよ。いろいろ試された方法についての話もそのたびに」


 やっぱり。

と、今度はシェリーが思う。

ハリー・ウォーレンの愛弟子メアリーアンが、『先生のところの生徒さん』についてそんな入り口しか知っていないはずはない。

そして出会った二人は初対面の素振りではなかった。

明らかに互いに素性を知っている態度で接していた。
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