月とバイオリン
「メレディスにあれほど慌てた顔をさせるんだもの、リースは大物よ。クリスがまだ戻っていないといいけれど」

 クリストファー様は遊びにお出になられたのである。

夜の女王の支配するやわらかなビロードの闇の街へと、デカいうさぎに誘われて。


 シェリーは今夜のどの言葉よりも力強く言った。

「まだよ」

「そうね」

視線を外しながら、メアリーアンは答えた。

何もなかったことに今夜の一件は収まるのだ。

とりあえず、クリストファーにとっては。

それで良いと思う。

知らないままで済ませることができるのなら、騒ぎ立てずとも。

シェリーとは違い、今後リースがこのようなまねを繰り返す可能性は低い。

シェリーとの友情が絡めば確率は跳ね上がるとしても、メレディスが目配りを惰りはしないだろう。
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