月とバイオリン
 ヴァイオリンの音色は道いっぱいに拡がり、街にスパイラルを描くように満ちていく。

あるものすべてを一つの大きな球にと抱え込むようだ。

シェリーは立ちつくし、この広い世界をまるで親しんでいる自分の部屋であるかのように感じていた。

知っているという安心感、知られているという幸福感。

まるいまるい、守るようなやわらかさ大きさが生まれる。

沈んでいる穏やかな夜の大気に、そっと触れるような、起こさないように足音を忍ばせる優しさのように。

「わかる? メアリーアン。教えて、お願い。なんて曲だったのか思い出せないの」

「えぇ――、と」
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