月とバイオリン
並んで立つメアリーアンにも、聴き覚えのある旋律だった。

渦を生む音をたどると同時に、記憶もたどっていく。

過去へと……、引っかかるものが姿を見せ始めた。

黒い服を着た男の人を見上げ、植物の大きな葉が揺れて、白いタイル、薄い太陽の光と、焦げた茶色のヴァイオリン。

断片の画(え)の中で、男の口が動いていた。


 確かあの時に、その人はその名を私に教えてくれたはず。

「バッハの」

そう、バッハの――。


記憶の男が言うよりも先に、違う声が響いた。



「パルティータ」

「シャコンヌね!」
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