月とバイオリン
クリアに声をあげてから、シェリーはそちらを振り向いた。

大きく膨れた月を後ろに、浮かび上がったシルエットは見誤るはずもない。

それにパルティータだと、そう言う声を聞いたのだ。

『無伴奏ヴァイオリン パルティータ第二番』。

その終曲が『シャコンヌ』に作られている。

音楽は全般的に彼の管轄だ。

影は預けていた背中を塀から離し、小さく二歩だけ道の中へ移動した。

「二人揃って、出かけていたらしいね」

悲しげに声は言う。

対してシェリーはトーンも高く、

「わぁ、フレディ。一日早いわ」

「遅かったみたいだ。ただいま戻りました」

「ずっと会いたかったけれど、二日前からとても会いたかったのよ」

「何かな、それは」
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