月とバイオリン
 とびつくシェリーを抱きとめて、その手にこもっていた力の強さに、眉をしかめる。

本当に、会いたい理由があったのだ。

吹き飛ばすように、メアリーアンが笑った。

「困るわ、フレディ。まだ辻褄を合わせていないのよ」


 表情を緩めてフレディは、シェリーの頭越しに手を差し出した。

「一日あれば足りた?」

「一月いただいても無理ね。おかえりなさい」


 いつもこの手のあたたかさに、自分の立つ場所を知る。

何が起きたのだとしても、それほどのことではないのだと、フレディは単純にほっとしていた。

腕の中にシェリーは居るし、メアリーアンは笑っている。

夜間の外出は許容範囲外だと思うのに、怒る気持ちが生まれてこないのは、空気があまりに穏やかに沈んでいるからかもしれない。

黄色い大きな月のあたたかな光が、降り注ぎ積もり重なっていく夜。

曲はそれを紡ぐように流れ、まるで目に見えそうな錯覚を抱かせる。
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