月とバイオリン
 奏者は何を思っているのか、不思議に感情の共有する心地があった。

同じように、長い旅をほぐしているように。

再会に、心を緩めていくように。

「三人とも中に入りなさい。もう時間も遅い」

「はーい」

ピーターの姿は見えず、家の中から声だけが聞こえた。

夜に異質なシェリーの弾む声を、草木の緑が受け止める。

木々を通した月の光に新たな絵を浮かび上がらせたタイルが、軽やかな音で靴を追いかける。

フレディとメアリーアン、二人の足音は、ゆっくりと後に続いた。


 窓からの月明りとランプの灯りの間に見つけたピーターは、旅人を迎える洞窟の精のように思えた。

落ち着いてきちんと見れば、見慣れたガウンと、手には煙をのぼらせる桜のパイプ。

現代に生きる英国人に間違いはない。
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