月とバイオリン
途端に、シェリーの海では、魚が飲んでいたものを吐き出した。



『なんのために生きてゆくのか?』

助けることができるように、――誰かを。

だから様々に想いを重ねて、誰もが生きてゆくのだと。

自ら想わずしては、誰の心も溶かせはしない。



「曲を変えたね」

「えぇ」

「技術的には拙いものだが」

涼やかに闇を縫いながら、舞い上がるような三拍子。

時折立ち止まり、戻って、また、踊り出す。

月明かりのようにこの街を包み込むような、眩しい気持ちで空の月を見上げるような。


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