月とバイオリン
 眠りかけ姫を目覚めさせる魔法の言葉を握っていたのは、兄上・クリストファーのご友人、招いた覚えはないけれど参加している、ジェラルド・カーストンその人だった。

本人にももちろん、そんな自覚はない。

ジェラルドはいつも、相手の状態を意識して動かない種類の人間なので。


ふざけた調子が、いつもの調子。客間を飛び越え、廊下を歩く人間にも聞こえるような大きな声で、呪文は発せられた。


「ロミオのようにね? シェリーちゃん」
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