月とバイオリン
ジェラルドの御者がどうなろうと、そんなことはどうでもいい。本人のためを思えば、別の雇い主のもとで働いた方が、いいのではないかとも思うし。

 この頃にはシェリーはすっかりと目を覚まし、ぱっちり開いた目で私を見返した。

勢いづいて話し出す姿に、萎れていた花が水を浴びた様子を思い出す。そして花の語る言語のように、始まりの言葉は謎だった。


「あのね、『カノン』が聞こえるのよ」


当然言葉としての意味はわかるけれども、唐突さにわかったことも見失いそうになる。

「『カノン』?」

繰り返す私にうなずいて見せる、その顔がきらきらと輝き出した。

大発見の報告をする子供のよう、などと言ったら叱られるだろうけれど、どうしてもそんな風だ。

「今の私のお部屋の窓はとても大きくてね、ベッドの横だし、どうしても開けたくなっちゃう場所にあるんだけど、それを開いてみたら」


なんと――?
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