月とバイオリン
「ここにちゃんとこうしているわ、リース。だってメアリーもピーターもお願いしてもついてきてくれないでしょ? 一人で行くしかなかったんだもの」

 だからシェリー。行かなくても良かったんじゃない?

私たちは三人とも、同じことを考えながら視線を交わし合った。

誰も口に出さなかったのは、言っても仕方がないことを良く承知していたからだ。

シェリーはいつだって、私たちの意見を確固たるオリジナルの法則に基づいた理論で粉砕する。

法則の頑固さゆえに、私たちは粉々になる。最近ではあきらめるのが早くなってしまい、シェリーのためではないのかもしれない。


 世に恐れるものの少ないジェラルドが意見を述べた。まるで良識のある大人のような発言だ。

「一人だとか夜だとかそれ以前に、屋根を這いつくばったりしちゃいけません。どうやって登るんだか、あんなところまで」

「簡単よ。塀に登って木に登って窓枠、ひさし、それで屋根。ちゃんと足掛かりがあるの」
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