月とバイオリン
 長い足を誇示するように使い、ジェラルドもソファから離れた。

特に引き止めていたわけではないけれど、次の約束に遅刻させてしまうことは、ホステスとしてはどうなのかしら。後でマナーブックに助けを求めておかなくちゃ。


 クリスは私の頭に手を置いてかがみ込み、

「おとなしくしていなさいよ」

「ご令嬢らしくね。リースちゃん、シェリーちゃん」

「あなたこそ相応しくね、ジェラルド様」

「わお」

 高すぎる笑い声を響かせているから、ジェラルドが遠ざかって行くのがわかる。

クリスの声が合間に聞こえるけれどそれは、低くて言葉はわからない。


彼らはこれから、インドの木々に想像の泉を刺激され、湧きいずる水に流されるまま取った行動の結果、めでたくも軍を除隊となった気鋭の詩人を囲む、アカデミックな集まりに首を並べに行くそうだ。

私ももう少し大人なら、連れて行ってもらいたいものだけど。
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