月とバイオリン
 扉が閉ざされてからほんの少しの間、シェリーはクリスたちの言いつけを守ることを覚えていたけれど、彼らの背中で玄関の扉が閉ざされた頃には、言われた言葉をすっかりと片付けてしまっていた。

ティータイム担当だったフローラも用済みとなった二人のカップを下げるために姿を消し、テラスには私たち二人きりだ。


 シェリーは銀のナイフでサワークリームをスコーンに大量に塗り付けている。もはや主体がどちらなのかわからないくらいの有様だった。

「フレディが居てくれれば、何かはわかると思うのに」

「帰ってくるわ。もうあと二日でしょ?」
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