月とバイオリン
黄昏
シモンズ家の中庭は綿密なキューブに造られていた。
赤褐色のレンガを、一風変わった組み方で重ねられた四方の壁と、床の大きさがぴたりと同じなのだと言う。
なんのために、という問いには答えない首謀者はもちろん、主のピーターである。
メアリーの笑い方からは、彼女が理由を知っているのか量れない。
同じ人間から発せられたとわかりやすい類の仕掛けが、屋敷内にも多数在るが、孫娘のメアリーアンが明確な説明を述べられる率は五十パーセント程度であることを考えると、解答入手のためにつきまとうのは無駄である可能性も半々。
あきらめて正解なのだろう。
死するその刻まで住まう場所と、ピーターが趣向を凝らし張り巡らせた家は、外から見た時には思いもしない、『細工は流々』なのだった。
一方の壁を隙間程度にしか覗かせないほどに伸びているのは、黄色い花を散らしている薔薇の蔓だった。
そろそろ夏かもしれない頃から、冬みたいな風が吹く頃まで咲き続ける、元気な花の持つ名前を『メアリーアン』と言う。
彼女のために作られた種ではないというのに、不思議なくらいこの家の娘に質が似ていた。