月とバイオリン
 闇へと変化する空の下、見上げ立っていると、漂うような気持ちになってゆく。

目を閉じるだけで自分の足を遠ざかる感覚が生まれてくるのを止めないままにする。

体を捨て、宙に飛び立つ、薄い影のように。

誰の目にも映らずに、まるで風のように気ままに。

ロンドンの上空を駆け回り、タワーブリッジを下に見る。

テムズの川面をふわふわと、ウォータールーまでやってきた。

街を守るようにそびえるビッグベンを掠めて飛んで、グリーンパークの木々の上でちょっとお休み。

空の上なのにマーブルアーチの『角を曲がって』、クィーンメアリのガーデンを目指そうかしら。



 その時、飛ぶ体のバランスが、ふいに崩れた。

空気の抵抗を感じ、前にと進まない。

捕らえられたかのような、感覚がある。


引き戻され……、引きつけられたような。
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