月とバイオリン
気づけば夕刻はとうに姿を消し、闇の女王の持ち時間となっていた。目を閉じている間に、行われた毎日の魔法。

ピーターは灯りをランプからテーブル中央のキャンドルボックスにと移し、用の済んだそれは足元に丁寧に下ろした。

金属部分がタイルに触れた微かな音は、自分の範囲の現実に起きているものだと、シェリーは思う。


 聴こえてくる、美しい音色。

これはまるで中世の吟遊詩人の奏でるリュートのうたに近く、一夜出会った夢のようでもあるのだ。

そんな音は儚く脆く聞こえるが、残り続ける強さを持っている。


 このカノンは、大勢の人間に届いている。

メアリーアンは、オールドメリルボンに住む人間の話をした。

ウォーレン先生の教え子であるのなら、相手は『彼』ということになる。


 現実の人間が奏でている音ならば――。
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