月とバイオリン
 そう思うと、仮定そのものがばかばかしくなる。

得られるはずもないものを、どこまでも追いかけて何になる?

目の前の現実に頷き、地に足を着けた考え方で進めなくては。


 たったと言われるほど短いけれど、十五の年まで生きてきて、シェリーは『どうにもならないものがあること』を知っていた。

生まれ育った国を脱け出してロンドンの街にやって来た理由など、その最たるものだ。

きちんと経験は積んでいる。

それは思い知らされるという言葉を使った方が良いくらい、襲いかかる嵐のような出来事だった。


 そう、まるで嵐だ。

神々の怒りの結果起こされる災難に、人など立ち向かえるはずもない。

だから、『どうにもならない』と言い、けれど潰されて足掻くのでは決してなく、その存在を認めた上で、復興を心に誓い、人にはできることがあるはずだ。


 世界は閉じられたと、闇を感じたあの時を思い、今ここに立ち、あたたかな光を浴びている自分を見る。

シェリルは、静かに顔を上げた。



 できることは、在るはずだ。
< 46 / 125 >

この作品をシェア

pagetop