月とバイオリン
「誰なの? 優しい音だわ。その人はカノンが好きだったのね。大切な人のために、あなたたくさん練習をしたんでしょう?」

「君は、占い師かなにかか?」

「違うわ、占いは不確かなものよ。私は信じていないわ」

「帰ってくれ。君のために弾いているわけじゃない」


 だから私ではなくて誰なのかと、それを尋ねているんじゃない。

拒絶されることに慣れていない、シェリーは自分の弱点に気付いていた。

慣れていないから対応できない。

どう言い直したなら答えがもらえるのか、わからないのは経験が少ないためだ。

誰もが自分のために望むものを見つけて差し出してくれた。そんな暮らしがこんなところでツケとなる。

頭を振って、あきれてしまいたい気持ちが起こる。


いったいどういう状態なのよ?

 対話をしようとしている相手と、次の言葉を見つけられずににらみ合ったままでいるなんて。

頭など振らなくても、充分にあきれられる。

話をしたいだけなのだ、自分はただ。


ただ、彼がカノンにこめていたものを知るために。
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