月とバイオリン
「弟さんのためのカノンだったのね。名前は、なんと言うの?」

写真を凝視したまま、彼は小さく口にした。

「ジャック」

続ける声は消えそうに。

「もうつかまらない相手だ」

「ジャック」

「死んだよ。冬に」


 ふと目を閉じ、それから彼は腕を下げ、写真を遠ざけた。

ふらつくような足取りで背中を向け、写真立ては元の場所にと戻された。

カタンと金属の音をたて、錆びてしまった銀のフレームが、あったように再び立つ。

醸し出されていた夏の日も、しぼむように消えてしまった。

今も季節は夏であるはずなのに、夜であることを合わせ考えても説明がつかないほどの冷やりとした空気に、部屋の中が変わっていく。

太陽に下に走り雲がかかったような急激さで、部屋は妙に平坦な、殺風景な部屋になっていた。
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