月とバイオリン
写真はただ写真である。

夏の日はただ過去なのだ。


 フレームは氷のように冷たそうに見えた。

「わかっただろう、鎮魂なんだ。邪魔をされていいものじゃない。帰って――、家に帰りなさい。パレードのヴァイオリン弾きとは違う。見ていても楽しくないよ」


 そう言うと彼は、寒々しい暖炉を離れ窓の側にと戻り、ヴァイオリンを構え直した。

左手の薬指が、細い線を弾き高い音が跳ねる。

弓が弦に届くまでの隙間に、シェリーは急いで言葉をねじ込んだ。

「あなたの音は私を悲しませるわ」


 手放してしまったら、二度とこれほどに近寄る時はないだろう。

後悔は予想に易く、とんでもない早口になっていた。

「苦しくなる。弾いているあなたはあなただけじゃなくて、聴いている私たちまで悲しくさせているのよ。知らなかった? 誰も言わなかったの?」
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