月とバイオリン
「知らなかったな」

冷たい。

「たまにはいいだろう。世の中、光ばかりじゃないんだ。死には背を向け光の中へと逃げ出すように。忘れるなよ、簡単なことじゃないだろう。ジャックは生きていた、今はもう戻らない。仕方ないのか? それだけなのか? 自分のことを考えろ? 生活をしろと? 生きていけと? なんのために」

「逃げたわけではないと、そう……」

「君がそう思うのなら、思っていればいい。僕の話は、君にはわからない」

「私が思うのではなくて、あなたのことよ。誰も、忘れたわけではないと、私は思う。悲しんでいないわけじゃないって思うの。ただみんなそれぞれに悲しみ方が違うんだって、そうじゃないの?」
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