月とバイオリン

 誰に伝えようとも思わず、誰に溶けることもなく。


 言葉を尽くし、語りかけたのだと思う。彼を知る誰も彼も。

共に、等しくジャックを亡くした彼らは、互いに伝え合えるはずだったのではなかったか。

なぜ彼だけが、違う場所に立ち、一人となってしまったのか。

ジャックがそれだけ特別な人間だったのかもしれないし、どこかで何かがすれ違ってしまったのかもしれない。


いろいろなことが起こるものだよ。

ピーターの言うとおり、この地上ではいろいろなことは起きてしまうのだ。

何かか、どんな風にでも、躓いて、行き違うことだってある。

どんなに親しい間にでも、岐れ道に立つ時があるのだと、――そんなことは知ってはいても、認めてしまうのは辛いのに。
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