月とバイオリン
 祖母が亡くなった時。

深い悲しみに襲われたけれど、いつからか変化は訪れていた。

泣き笑い、思い出を語り合う。

きっかけがあったわけではない、いつしかそう変わっていたのだ。

憶えていることを喜んでくれるだろうと思い、光に月に風や花に、彼の人を思い出すことであたたかくなる。

けれどそれを語ったところでどうなのだろう。

自分だけの話なのだと、彼は自ら線を引いている。他人がそれをどう感じているのかどう扱っているのかなど、信じられはしないのだ。


 僕の話は君にはわからない。

――彼の話は彼にもわからない、だから誰にもわからない。
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