月とバイオリン
首を振るとシェリーは、正面に回り、彼の目をまっすぐに見つめた。

彼は向かい合い身じろぎもせず、そして受け止めもしなかった。

「あなたを知っている、私は。もう知っているもの。私たち、こうして話をしているし、それに、あなたはずっと弾き続けて私にカノンを聴かせていてくれたじゃない。ジャックが何を望んでいるのか、それはあなたが考えるといいわ。あなたしか知らないあなたのジャックのことなのだから、あなたの言うとおり私にはわからない。あなたが教えてくれなければ、名前も知らないままだった。でも今は知っているわ。あなたが教えてくれたから」

無理なのだろうか……。

「彼はジャックよ。写真が残っていて良かったわ。私も会うことができたもの」


 手ごたえなどあるわけがない。

話し終えても、何も変わりはしなかった。

聞こえているのか?


 そんな疑いすら生まれてしまうような、ガラスの表情。
< 73 / 125 >

この作品をシェア

pagetop