月とバイオリン
天使の迷走
話に聞いていた時にはできそうな気もしていたのだけれど、目の前にそびえ立つ建築物の屋根は、真っ暗な空に飲み込まれているのではないかと思うほどに高かった。
太陽の下では明るい色のレンガの壁も、夜の魔法にかけられて黒く変化してしまっている。
透きとおり光を通わせている窓も、まるで逆の役割を果たすものとなったようで、壁よりも黒く見えてならないのだった。
自分を包む空気さえ、自分のためのものではないと感じてしまう。
夜だからだ。
この世界は私をはじいているのだと思う。太陽の下で生きるものだから。
シェリーにできたのだから、きっと私にもできることなんだと思えばいい。
能力に差があることはわかっているけれど、私はただ一つの相似点、同い年の女の子、という箇所に頼ることにしてみた。
どんなことになったとしても、シェリーを追っていかなくてはならない私としては、今ここでは手と足を前に出すことしか選べない。