月とバイオリン
 不思議そうな顔を、メアリーアンはシェリーが見ている窓の外に向けた。

つかみどころのない夜の遠い喧騒の中に、それらに飲み込まれ同化することのない音が浮かんでいるのをやがて見つける。

「ヴァイオリンね」

「昨日の夜にも聴いたのよ。誰が弾いているのか、メアリーは知ってる? この近くの人でしょ」

「オールドメリルボンの方だったかしら」

「知ってる人なの?!」

「私じゃなくて、ウォーレン先生から聞いたことがあるの。先生のところの学生さんだというお話だったけれど。どうしたの? そんな顔をして」

「とてもきれいだから、親しいのなら紹介してもらえるかしらと思ったの」

 どんな顔をしてしまったんだろう、とシェリーは笑顔を引き戻した。

メアリーアンは暴れるカーテンを押さえながら、
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