月とバイオリン
どれだけ時間を費やしたことか。
そしてどれだけ無駄に往復をしたんだか。
大変に大した苦労の末、私が目当ての明り取りの窓に、たどり着いていたのは、月の位置が変わったことを、目で見て判別できる頃。
そして、カノンも中断されていた。
斜めになっている体のことは、あまり重大に考えないように努力しながら、右手も左手も正しいと思える位置に固定する。
地面に対して、傾斜角度は五度程度。
滑り落ちる心配はない、と思い込むこととして、私は部屋の中を覗き込んだ。
床に丸い敷物、二つあるソファには、手製らしい柄のカバーがかかっている。
二脚は暖炉を向いていて、マントルピースに写真立てがいくつか。
古そうな本が数冊積まれ、丸いものは、あれは懐中時計。
蓋が開かれたまま、不安定に置かれて、銀の鎖は垂らされていた。