月とバイオリン
 部屋の住人は、窓の真下に立っていた。

髪の色はランプの灯りの中で、黒? っぽく見える。

とにかく真下なので、それ以外にわかることといったら、手にヴァイオリンを持っていることくらい。

対するシェリーについては、細々といろいろ見て取ることができた。

計画的な脱出である証拠に、きちんと外出着を、帽子まで身に着けている。

襟と袖にレースリボンが縫いこまれたペールブルーのドレス。

それはなにやら曰くの付いたお気に入りの品であり、わざわざ家に取りに帰ったことを併せれば、半端な挑み方ではないことが伝わった。


 私の胸には嫌な、……と言うよりは恐ろしい気持ちが湧いてきていた。

変な姿勢で胸がどこにあるものやら自身すら見失いそうなところだけれど、暗黒に渦を巻いていくような、どろどろとした感じがそこにある。
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