月とバイオリン
シェリーはほっと息をついた。大丈夫だとその言葉が、体中に沁みていく。

「えぇ。えぇ、そうなの。だけど、どうして」

「ケガはしていないようだし、距離から言えば大した高さじゃないだろ? けれどどうしてあんなところから落ちたり……。木の上じゃない、屋根だよ、上は」

「リースはたぶん、私のことを心配して見に来てくれたのだと思うわ。だから、窓を破ったのは私のせいね。ごめんなさい。明日すぐに直してもらうようにする。今晩は少し、風が入り過ぎるけど」


 口を半ば開けたまま黙り込み、ただこちらを見ている彼の顔は、あきれているのではなく放心しているのだと思、いたい。

きっぱりとどちらだと言い切れない、その瞳は読み難かった。


 けれど。
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