月とバイオリン
 けれど、とそう思う。

鏡のような硬さは薄れ、映っている感覚があると思えるのは、思っているのだから気のせいや希望では決してない。

湧き起こる喜びに、シェリーの瞳は輝き始めた。

誰でもない自分がそう思うのだから、間違いなどない真実だ。

やっと、安心できるいつもの自分に、帰っていけそうな気がしてきた。

あまりの凝視に居心地が悪くなったのか、彼はふいと目をそらし立ち上がった。

「その子に水を持ってこよう」


 促されて、シェリーは握ったままのリースの手に目を向けた。

あたたかなを通り越して、汗ばんでしまっている自分たちの手。

意識を失いながらも握り返してくれるリースの、強い友情をそこに感じて、とても嬉しい気持ちになった。
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