恋合わせ -私じゃ…ダメなの?-

そーいや、前にこんなことがあったっけ。

まだ良樹と同棲しはじめたの頃のことだけど、海にドライブに行ったとき、その帰り道の海沿いの町で、良樹が茶トラ柄の猫をはねた。

あたしはオロオロしてたんだけど、そのとき良樹は平然とした顔でこう言ったんだ…、

「俺、教習所で、クルマを運転してて、もし猫が飛び出してきても、急ハンドルしたら対向車線に飛び出したり、道路脇に突っ込んだりして危ねぇし、急ブレーキをかけたら追突されるから、そのまま走ったほうがいい、って教わったぜ」

…って―――――


このとき、あたしはドン引きした。

クルマとか電柱は修理したら治せるけど、 猫は死んだらおしまいだと思ったからだ。


運転中、目の前に猫が飛び出してくるっていう同じシチュエーションに置かれても、ヒトによって対応がこんなにも違うんだ。

良樹は、自分の身とクルマを守るために確信犯で猫をはねた。

それなのに、渋谷祐二は猫を避けようとして新車を10分で廃車にした。


あたしの中ではこの時点ですでに、良樹は一人の人間として渋谷祐二に完敗していた。

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