恋合わせ -私じゃ…ダメなの?-
「し、渋谷さん、おはようございます」


「おはようございます」


彼はちゃんとあいさつを返してくれた。

傍目には会社の同僚にただあいさつをしただけにしか見えなかったに違いない。

でもその“あいさつをする”っていう行為が、今のあたしにとって簡単なことじゃなかった。

でも勇気を出してあいさつしたし、ちゃんと返事もしてもらったし、それだけでもうその日の仕事は全部終わったような……そんな気持ちにさえあたしはなっていた。

でも実際には一日ははじまったばかりだ。

そして昼休みになるまで、あたしは彼とひと言も話すことができなかった。

話かけると気が散るんじゃないかと思ったのもあるけど、結論としてはまだまだ話しかける勇気が足りなかったことが最大の敗因だったと、あたしは自覚した。

まず、あいさつをすれば、それがきっかけとなってフツーに話ができるようになるだろうと思っていたんだけど、それは考えが甘かったということだ。


「…!?」

そのとき彼が作業の手を止めて、右手の包帯を締め直した。たぶん作業をしているうちに包帯が緩んできたんだと思う。
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