恋合わせ -私じゃ…ダメなの?-
ビクッとして手を引っ込めるあたし。
「ゴメンなさい……」
あたしがそう言うと、彼は黙ったまま微笑むと小さく首を左右に振った。
この工場では、狭い空間に横一列に二十数名の人が並んで流れ作業をしている。
だから、何かの拍子でたまたま隣りの人に肘が当たるくらいのことはむしろあって当然だったんだけど、でも肘が当たるのと、指先同士が触れ合うのとでは、やっぱり感覚が全然違うと思う。
あのとき、自分自身でも、この歳になって今さら男と指先がちょっと触れ合っただけで、こんなにもなるものなのかと驚くほど、あたしの胸はドキッとしていた。
帰宅して何げにテレビを見ていたときに…、
「現在の渋谷駅前の様子です」
…なんてアナウンサーの人が言うのを聞いただけで…、
「渋谷さん、今頃なにしてるんだろう……」
…って気になるほど、昼間のことを引きずっていた。
あたしはうすうす感じていたその想いを今やハッキリと自覚した。