久遠の花〜blood rose~雅ルート
「魅了じゃない、のか?――体は問題無いか?」
「だ、大丈夫、です」
話していると、徐々に落ち着いてきたのか――目蓋が、重くなっていく。
「あのう……あなたは、いっ、たい――…」
目を開けるのが、辛い。
体も、なんだか段々重くなってしまって……こんな感覚は、初めてかもしれない。
「!? お、おい!」
声がするのに、それに答えることもできなくて。
睡魔に誘われるような感覚。その感覚に、私は身を委ねていった。
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―――――――…
――――…
気が付くと、そこは病院のベッドだった。看護婦さんの話では、夜中に家で倒れていたらしい。
家って……倒れたの、外のはずなのに。
自分の身に起きたことを、ゆっくりと思い出す。なぜか公園に寝巻きのままいて、無理やり見知らぬ男の人に抱き寄せられて……それを、昼間の少年が助けてくれた。それから二人に共通するのが、尋常じゃない速さで走れることで――。意外にも、意識を失う前のことを覚えていた。だけど、これが現実に起こったことなのかって思うと……体験した自分でも、正直疑ってしまう。
「……先生」
病室から出ようとする先生を呼び止め、私は疑問を口にする。
「薬をずっと飲んでいたら……幻覚って、見ますか?」
あれが現実でないなら、考えられるのはこれしかない。薬による副作用というのが、一番納得がいくし。それに先生は、しばらく考え込んだあと、ゆっくり口を開いた。
「無いことも無いですが……貴方に処方している物には、そういった原因になる物は無いはずなんですけどね。――何か、気になることでも?」
そう言われ、私は少し間を置いてから、少年のことを話した。軽々と自分を抱え、時間にして二十分はかかるであろう場所に数秒で行ったこと。そして――自分と同じ、病気だということを。
「それは……貴方の願望みたいなものかもしれませんね」
「私の……願望?」
「自分と同じ人がいたら。みんなより早く走れたらとか。――そういった無意識にあるものが、ストレスをかけている場合はありますよ」
「願望……」
もう一度、ゆっくり言葉を反復する。今まで考えなかったわけじゃない。どこか割り切れないでいるのもわかってるつもりだったのに……。
「無意識じゃあ、気を付けるのは難しいですね」
苦笑いを浮かべながら言えば、そんな私に先生は、優しい笑みを見せた。
「無理しないのが一番です。貴方は少々、頑張りすぎる所がありますからね」
「私は別に……ただ、少しでも普通に過ごしたいだけで」
「たまには、手を抜くのも必要です」
そう言って、ぽんっぽんっと、私の頭に軽く触れる。
「今は何も考えず、ゆっくり休みなさい」
「……そう、ですね」
それから私は、また意識を手放した。今度は自分の意思で……ただ、眠りに落ちるために。