久遠の花〜blood rose~雅ルート



 「それかさ――血をくれよ」



 以前にも聞いたことがある、悲しみを含んだ声。それまであった恥ずかしさは消え、心配な気持ちが込み上げてくる。



 「どうしてそんなに――悲しそうな目をするの?」



 公園での雰囲気に似て、その様子が儚げで。



 「心が――泣いてる」



 自然と手が、雅さんの頬に触れていた。



 「――――っんだよ、アンタ」



 力強く、体が引き寄せられる。しばらくすると、抱きしめた腕が、微かに震えているように感じた。



 「あ、あのう……」



 あまりにもしゃべらないから、声をかけた。それでも答えてくれないから、今更だけど、雅さんのことについて質問することにした。

 「あれだけ走ったり、高く飛んだり――。み、雅さんは――何者、なんですか?」

 「――――吸血鬼」

 「えっ?」

 「だから吸血鬼。人間から見たら、そーいう部類」

 顔を見合わせ、いつものように笑う雅さんに、今度は私の方がなんて言っていいかわからなくなってしまった。

 「美咲ちゃん、聞いてる?」

 「は、はい。――あのう、吸血鬼って言うのは」

 「もちろんホント。だからさっき、血が欲しくなったんだよね。ははっ」

 笑いながら言われても……正直、説得力がない。

 「叶夜君も、なんですか?」

 「アイツはどーだろうねぇ? 血は吸わないと思うけど」

 「でも今、吸血鬼って……」

 「吸うヤツと吸わないヤツがいるんだよ。ま、それでもまとめて人間がそー呼んでるんだけど」

 ここまで言われると、本当に本当なのかなって、ちょっとは考えてくる。
 実際、あの身体能力を二回も見てるわけだし。

 「――とりあえず、吸血鬼だっていうのはわかりました」

 「じゃあオレに血、くれる?」

 「そ、それとこれとは別です!」

 血だなんて……そんなの怖い。
 イメージからすると、牙で思いきり噛まれる気がするし。

 「ならキスはどう? 口じゃなくておでこに」

 「おでこ、ですか?」

 「そうだよ。ホントは早く回復する為に口がいいけど、それで手を打つよ」

 手を打つって。
 なんだか、私の方からせがんでるように聞こえるんですけど。
< 21 / 82 >

この作品をシェア

pagetop