久遠の花〜blood rose~雅ルート
「……口に、しないなら」
「オレを信じなって」
信じたいけど、念の為保険を。
「本当に……おでこだけ、ですよ?」
「わかってるって。――じゃあ、いただきまぁーす」
前髪をかき上げると、ちゅっ、と音をたて唇が額に触れた。
たった数秒で終わると思ったのに、雅さんのキスは一回で終わらない。
「も、もういいんじゃ……」
「えぇ~もうダメなの?」
拗ねた様子で聞く雅さん。
その甘えた声に、思わず可愛いと言ってしまいそうになった。
「ねぇ、もうちょっといいでしょ?」
「も、もうダメです!」
「なら、抱くのはこのままだからね?」
「できればそれも……」
「ダ~メ。回復しないと、美咲ちゃん帰せないじゃん」
……ちゃんと、考えてくれてたんだ。
「オレはこのままでもいいけど、美咲ちゃん帰りたいでしょ?」
からかってばかりだけど、こういうところはちゃんとしてるんだ。
「――そういうことなら、いいです」
「ホント? やった!」
「ちょっ、雅さんっ!」
「イイって言ったでしょ? ぎゅ~ってさせてよ」
「ほ、本当に、それだけですからね?」
あまりに楽しそうだから、もう、このままでもいいかなぁって気になってくる。
こうやってくっつくのは苦手なのに――不思議な気分。
「寝ててイイからね。ちゃんと帰してあげるから」
「さすがにそれは……」
『――――…ロセ』
? 今、なにか音が。
『――――…ロセ』
やっぱりだ。
どこからか、音が聞こえる。何を言っているのかわからないのに、これを知ってると、私の中でなにかが反応を示す。
「この声……なに?」
「声? 別に声なんてしないけど」
『―――…ロセ! メイカに、…を』
心臓が、バクバクと音をたて焦っていく。
頭に響く声はどんどん大きくなり、体中を悪寒が駆け巡ったと同時、
「うわぁああーーー!!」
耐えられなくなった私は、声を大きく張り上げた。
体の奥底から、嫌なモノが溢れてくるような……得体のしれない感覚に、頭を抱え暴れた。
「ちょっ! 美咲ちゃん!?」
時々、頭の声とは別の音が聞こえる。でもそれは頭の声に打ち消され、パニックになっている私には、まともにその音が届くことはなかった。
「うっ、あ……ぃ、やだ。――触らないで!!」
黒いモノが、私に触れようとする。
触れてはダメだ。これは危険だと、本能が叫ぶ。
それから逃げるため、私は何度も、近付いてくるそれを振り払い続けた。