久遠の花〜blood rose~雅ルート

「な、なに、を……?」

「ん~? ちょっと、ね。――大丈夫。血は吸わないから」

 その言葉でようやく、雅さんがなにをしているのか理解した。
 時々感じる温かな感触は……雅さんの舌。まるで飴でも舐めているかのように、何度も首筋を這うそれに、自分でも恥ずかしい声がもれていた。

「ひゃ、っ!……んんっ?!」

「敏感だね? 首だけでこれなんだから……本番なんてしたらどうなるか」

「ほ、ほん……ばん?」

「そう、本番。言っとくけど、美咲ちゃんを襲うヤツの中には、そーいう行為を求めるのもいるから」

 それって……違う意味で、襲われるってこと?

「だから今のうちにオレが、ってね」

「っ!? そ、そんっ、なの」

 まさか雅さん……本気で私のことを!?
 逃げようにも、未だ上に乗られていて身動きがとれない。おまけに首筋を這う感触のせいで、それが余計、体を思うように動かせない原因となっていた。

「んっ……や、めっ」

 やめてと言いたい。なのに、言葉がうまく出てくれなくて……ぎゅっと、雅さんの腕にしがみ付くしか、体も動いてくれなかった。
 頭がぼぉーっとして、体がどんどん熱くなってしまう。



「っ――――叩っけ」



 小さく、そんな声が聞こえる。
 もう首筋に感触はなくて、雅さんは少しずつ、私から離れていた。

「なんか、ヤバいからさ……思いっきり、叩いてよ」

 苦しそうな表情で、雅さんは言う。なんとか上半身は起こしたものの、未だ完全には、私の上から退いていない。

「思いっきり。叩いてくれると、助かるん、だよねぇ……」

「た、叩けって言われても……」

 突然こんなことをされば、怒りたくもなる。
 でも、ここまで密着するのは、力が足りなくて苦しいからじゃないかって……そう思ったら、雅さんを叩くことなんてできない。



「叩けるわけ……ないよ」



 その言葉に、雅さんはなんとも言えない表情を浮かべる。大きなため息をはいたかと思えば、



「――近付き過ぎた」



 と、消えそうな声で言った。
 すると雅さんは、ベッドから下りるなり、振り返らず窓へ向かう。

「……雅、さん?」

 思わず、名前を呼んだ。それでも雅さんは振り返ることなく、ただ一言、



「ホント――ごめんね」



 謝罪をし、あっという間に姿を消した。
 私もなんとか起き上がり、窓の外を見た。でも、雅さんの姿を見ることはできなくて。そのまましばらく――空を眺めた。
 星が輝き、綺麗な満月が顔を出していて。こうやってゆっくりと眺めるのは、久しぶりだ。穏やかな気持ちになる反面、私はまだ緊張している自分がいることに気が付いた。



「まだ……ドキドキしてる」



 胸に手を当て、改めて実感した。
 当たり前だよね。あんなふうに男の人と接することなんて、今までなかったんだら。



「雅さん……大丈夫なのかなぁ」



 考えてもわからないことなのに、今はどうしてか、それを考えてしまって。答えなどわからないまま、私はベッドに体を預けた。
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