久遠の花〜blood rose~雅ルート
「り、理由になっていません……。ちゃんと、説明して下さい」
「俺としては、ちゃんとした理由のつもりだったんだがな。――簡単に言うと、ここらを今夜、怖いやつらがうろつく予定になっている。変に因縁つけられて、絡まれたくないだろう?」
今度はちゃんと、理由らしい理由を答えてくれた。怖い人たちだなんて……不良とか、そういうこと?というより、なんでそんなこと知ってるんだろう?もしかしたら、そういう人たちの仲間なのかと思ったら……少し、体が強張り始めていた。
「――俺は、違うから」
「違う、って……」
「多分、君が今考えてること。知ってるけど、俺は違うから」
「そう、なんですか?」
「あぁ。だから、出来れば怖がらないでほしいかな」
苦笑いを浮かべる少年。どうやら、私が怖がってしまっているのをわかったらしい。
「とにかく、今夜は家でじっとしててくれ。――いいな?」
ぐいっと、距離を詰める少年。思わず後退した私は、恥ずかしさのあまりまともに返事を返せなくて。何度も頷くことで、少年の言葉に答えた。その反応が面白いのか、少年はくすっと笑いをこぼす。
「本当に分かったなら安心だ。――じゃあな」
最後にやわらかな笑みを見せると、少年は軽く手を振りながら帰って行く。
それに私も、その場で小さく、手を振りながら見送った。
◇◆◇◆◇
「今日は、なんだか機嫌がいいのう」
食事後のお茶を飲んでいると、おじいちゃんからそんなことを言われた。
「そう? 私、そんなに楽しそうに見える?」
「あぁ。なんとなく、な」
「ふふっ。なんとなくなんだね」
おじいちゃんが言うとおり、今日は気分がいい。体調がいいっていうのもあるけど、一番は、あの少年と会ったことだろう。思い出したら、自然と笑みがこぼれていて。なにがあったのかと聞くおじいちゃんに、自分と似た病気を持つ人と会ったことを話した。
「そうかそうか。そりゃあ話もはずんだじゃろう?」
「うん。でも、ちょっとしか話せなかったんだよね。名前だって、聞きそびれちゃったし」
「大丈夫じゃよ。きっと、また会えるとも」
「そうだと嬉しいぁ」
お茶を一口飲み、しばらくぼぉーっと湯呑を眺める。本当、また会えたらいいんだけど。そうしたら……今度はもっと、色々話したいな。
「――もう、時期なんじゃな」
ぽつり、おじいちゃんが呟く。何て言ったのかと思えば、もうすぐおばあちゃんの命日だな、と言われた。
「じゃあ明日にでも、お花買わなくちゃ」
「急ぐことないぞ。今週中に買っておいてくれ」
この家には、私とおじいちゃんの二人だけ。おばちゃんは去年他界してしまって、両親は物心つく前に亡くなってしまった。
二階建ての家に二人だけっていうのは、時々やけに広く感じることもあるけど――少しずつ、それにも慣れつつあった。
「じゃあ、じいちゃんはそろそろ寝ようかのう」
湯呑をシンクに置くと、おじいちゃんはおやすみと挨拶をして、部屋に戻って行った。
……私も、早めに寝ちゃおうかなぁ。まだ九時を回ったばかりなのに、今日はちょっと眠気があった。自分でも気付かないうちに疲れが溜まっていたのかなぁと思いながら、二階にある自分の部屋に行く。寝巻きにしている白のTシャツと水色の短パンに着替え、さぁ寝ようかと背伸びをしていれば、
『――もうすぐ』
ふと、どこからか、声が聞こえた気がした。でも、周りを見ても音を発するものは無いし、ましてや誰かがいるなんてこともない。
外から、かなぁ……?窓を開け辺りを見回したけど――やっぱり、それらしいものは見つからない。ただの気のせいだと思い、窓を閉めようとした途端、
『もうすぐ――始まる』
今度ははっきり、そんな声が聞こえた。