久遠の花〜blood rose~雅ルート

 「――――っ!?」

 途端、目の前が真っ白に染まっていく。瞬きしても、目を擦っても。視界に映るものは、何も無かった。
 ! そ、そうだよ……ここは、部屋のはずっ。
 突然のことに驚きながらも、ここが自分の部屋ということを思い出し、なんとか気持ちを静めていく。窓なんて開けっぱなしでいい。早く眠ってしまおうと、ベッドがあるであろう方へと歩いた。――歩いてる、はずなのに。
 ?……なにも、ない?
 数歩でベッドに着く。たったそれぐらいの短い距離なのに、未だベッドに着くことはおろか、壁にもぶつかることもなかった。
 どうして……。私、本当はもう寝てる、とか?
 どこまで歩いても、なにも無い真っ白な世界。普通ならあり得ない光景に、これはいよいよ夢なのかと思い始めていれば、

 「―――――?」

 何度目かの瞬きで、ようやく視界が開けてきた。

 「よ、よかったぁ……?」

 ほっとしたのも束の間。私は、今自分の目に映る光景が信じられなかった。
 見間違い……だよ、ね?
 目に映るのは、部屋では絶対に見ないもので。星空が、視界いっぱいに飛び込んだ。周りをよく見れば、そこは近所にある、小さな公園だった。

 「なん、で……私、おかしくなった、の?」

 頭を抱え、なぜ自分がここにいるのかと考える。寝巻きで、しかも裸足のまま外に出るなんて……普通なら、こんな恰好で出歩くはずない。――だとすれば。

 「……副作用、とか?」

 思い付くのが、それしかなかった。自分は薬を飲んでるし、それならこうしてうろついてしまったのも、納得がいく。きっとそうなんだと結論付け、早く家に帰ろうと走りだせば。

 「――――っ?」

 途端、目の前が歪み始めた。眩(くら)む意識の中、私は寝る前の薬を飲んでいないことを思い出した。そんな状態で走れば、こうなってしまうのは当然のことで。呼吸をするのも辛くなり、これはいよいよ危険だと、私は座れそうな場所を探し、ベンチを見つけるなり、倒れるように横たわった。
 はや、く……帰らないと。
 こんなところを見られたら、怪しい人だって思われる。なんとか呼吸だけでも整えようと、大きく深呼吸を繰り返し、体力の回復を待っていれば。



 ――――ドサッ!



 どこからか、重たい音が聞こえた。まるで上からなにかが落ちたような、そんな音。上体を起こし周りを見渡すも、それらしいのは見当たらなくて。
 ……気のせい、だよね。神経が過敏になっているんだろうと思い、再び横になれば……ぞくっと、嫌な感覚が走った。寒くもないのに、体が、勝手に震える。怯えているような、理解できないなにかが、体の中を駆け巡っていく。

 「この匂い――そっちか」

 また、何か聞こえた。
 誰かがいる……と、姿なんて見えないのに、確信にも似たものが私の中にあった。ドクッ、ドクッと、大きく脈打つ心臓。ここから早く逃げろと、まるで全身が警告しているように、その音は激しさを増す。



 これは薬のせい。 違う。
 これは考え過ぎ。 違う。



 幾ら納得させようとしても、それが不自然だと、否定的な考えが浮かんでしまう。
 この場から離れよう。そう考え付いた時には――もう、遅過ぎた。

 「み~つけた!」

 突然、目の前に現れた男性。私と同じ目線にしゃがみこむと、なんとも楽しそうな笑みを見せた。
 い、いつの、間に……?近付いて来る気配なんてなかった。それこそ、靴の音すらしなかったのに……。あまりに驚いた私は、声も出せないまま、ただじっと男性を見つめた。
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