暁に消え逝く星

 呆れたように男は少年を見下ろす。
「それなのに、扉を開けたのか」
「だって、もし僕が扉を開けなかったら、お兄ちゃんは死んでたかもしれない。強そうだから死ななそうだけど、怪我をしたかもしれない。
 いずれ出会う大切な人に恥じるようなことをしちゃ駄目だって、お父さんが言ってたから。僕もそう思う。だから、怖かったけど、声をかけたんだ。お父さんみたいに、自分の子供に尊敬される人間になりたいんだ」
 大人びた口調に、男は内心驚いた。
「その父親はどうした?」
 問われて、少年の表情がすっと、淋しげになった。
「二年前に、死んじゃった。だから、お姉ちゃんが働きに出て行かなきゃならなくなったんだ。だから、今は僕一人」
「――一人で、ここに住んでいるのか」
「お姉ちゃんからの仕送りがあるから大丈夫。来年の春が終わる頃には、お姉ちゃんが帰ってくるから、それまでは僕がこの家を守らないと」
「――」
 こんな子どもが、養ってくれる親もいないのにたった一人で生きているとは。
 それでも生きていけるのは、この国の昔ながら制度の名残だろう。
 男はこの少年が不憫だった。
「お前は、立派な男だな」
「ふふ。じゃあ、お兄ちゃんぐらいの歳になったら、きっと物凄く立派な男になれるね」
「そうだな。間違いない。俺などお前の足元にも及ばんよ」
 そうして、二人で笑った。


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