暁に消え逝く星
流れの速い水は、すぐに体温を奪った。
たちまち、手足の末端が刺すような痛みを訴えだした。
それでも、男は足を取られぬよう慎重に、水の勢いに背を押されるように歩き続ける。
そのうち刺すような痛みもなくなった。
感覚が麻痺し、食いしばっていなければ歯の音が鳴った。
かろうじて上部に空いた空間は、男の頭1つ分は余裕だったが、横長の半円状のため、長身の男は身をかがめるしかなかった。
長い長い時間、歩き続けたようにも思えた。
水路の最後の角を曲がると、そこは下りが真っ直ぐに続いていた。
いよいよここを抜けると、皇宮内の、リュマの姉が働いている居住区の貯水槽へと出るのだ。
男は腰に結わえておいた空気をつめた革袋をの栓を震える手でとり、口に含む。
そして、流れに身を任せるように身体を沈めた。
さらに奥にいくほど狭くなった水路は、奥へ奥へと男の身体を追いやる。
暗闇と凍えるような冷たさで、泳ぐというより吐き出されるように流される。
そして、どれほどたったのか、突然落ちるように水の流れに押し出された後、身体がふわりと水流から自由になった。
水が、流れない。
男は、革袋を咥えたまま、上へとあがった。
そして、顔が空気に触れた。
「――」
顔を巡らせて薄ぼんやりとしている周りをみると、どうやらここは見取り図通りの貯水槽だった。