暁に消え逝く星
手を止め、中庭の暗やみを見据えた。
誰もいるはずはない。
ここは曲がりなりにも皇族の居住区だ。
だが、確かに誰かに見られているような気がする。
首を横に振って、女は再び、手探りで耳飾りを探そうと下を向いた。
その時。
「!?」
大きな手が女の口元を塞ぎ、もう一方の腕が華奢な身体を抵抗できないように後ろから抱き込んだ。
「リュシアだな、リュマの姉の」
耳元で低く響く男の言葉に、女は身体を強ばらせた。
「驚かせてすまん。俺はリュマの使いだ。お前に危害を加えるつもりはない。手を離しても騒ぎ立てたりしないと誓えるか?」
押さえ付けられながらも、女は二度、大きく頷いた。
男がゆっくりと口元を押さえていた手を離す。
だが、身体を押さえ付ける腕は未だ離れない。
「どこか、落ち着いて話せるところはないか。できれば、誰も近づかないところだ」
もう一度頷くと、女は短く言った。
「ついてきて」
押さえつけていた腕を離すと、女はすぐに男の先を歩き出す。
無駄な事は何一つ言わなかった。