暁に消え逝く星
「命拾いをした。礼をいう」
女は動かなかった。
背を向けたまま、
「もう行って。弟の葬儀は――代わりにしてちょうだい。あたしは、行けないから」
低くそう言った。
「一緒に来るか?」
そんな言葉が思わず口から出た。
男の言葉に、女は静かに振り返る。
「あんたの髪は濡れていた。ということは、きっと水路から皇宮に入ったんでしょう? あたしはいけないわ。泳げないし、息も続かないもの」
頭のいい女だった。
観察力にも優れている。
「このままここにいたら死ぬぞ。内乱が起こりかけてる、もう時間の問題だ」
「起こるなら起こればいい。あたしにはもう関係ない。弟がいないなら、意味がない。別に死んだってかまわない」
女の声は、すでに死期を悟った病人のように虚ろに響いた。
そうだ、彼女の人生は、ある意味終わったのだ。
弟の死を、知った時点で。
男が、その訃報を齎らしたせいで。