暁に消え逝く星
背を向け、歩きだす女を、男は咄嗟にとどめた。
「お前には命を救ってもらった借りがある――望みを言え」
女は振り返らず答えた。
「できない誓いはしないほうがいい」
「誓った以上は命に懸けて果たしてやる。望みを言え」
「――あんたに何ができるというの?」
呻くように呟いて、女は振り返った。
美しい顔が、挑むように男を見上げた。
忘れかけていた怒りが、女の胸の内に甦る。
理不尽な行いになす術もなく、諦めた怒りだ。
望み?
そんなものは、一つだけだ。
そして、それはもう叶うことのない望みだ。
命に懸けて――男は言った。
簡単に、そう言う男が憎かった。
突然現われて、弟の死を告げた、自分の希望を打ち砕いた、死神のような男。
女は時が戻ればいいと思った。
つい先程の、耳飾りを探していたあの時に戻れれば、この苦しみから逃れられるのに。
話など聞かねばよかった。
男の言うことを信じなければよかった。
美しい振りをしたこの醜い世界で、弟に会えることを夢見て、騙されたまま死ねれば――