暁に消え逝く星
明け方近く、部屋へ戻った男は、扉の前で小さな歌声を聞いた。
そっと扉を開けて中へと入る。
それは、子守歌だった。
女は、男が部屋に入ってきたことにも気づいていなかった。
否、気づいていてもどうでもいいことなのだ。
ただ、静かに、子守歌を繰り返す。
リュマに歌ってやった、あたたかで幸福だった日々を思い起こす、そしてもう二度と戻らぬ日々を呼び起こすためだけに。
「――」
失った過去に囚われ続ける女を見ているのは胸が痛む。
その感情は確かに憐れみだが、それ以上に、男は女を愛しく思っていた。
リュマが語る姉の話を聞いて、いつしか会いたいと願っている自分に気づいた。
笑った顔が何より綺麗だと、大好きだと言っていた、その笑顔を、心から笑った顔を、いつか見てみたいとずっと思っていたのだ。
しかし、女はもう心から笑わない。
男には何も出来ない。
強い拳も、剣も、目の前の女を救うことは出来ないのだ。