暁に消え逝く星
「――落ち着いたかい?」
互いの熱を吐き出した後、呼吸が整ってからアウレシアは問うた。
「ああ。――その、すまなかった」
言い淀むイルグレンに、アウレシアはくすりと笑う。
「何で謝るのさ」
「自分でもよくわからないが、こんな時に、こんな場所で、不謹慎だと思って。しかも、お前を乱暴に扱った」
あくまでも真面目な皇子の言いように、アウレシアはもう一度小さく笑う。
「仕方ないよ。あんた今日が初めてだろ、実戦は。戦闘の高揚感が高まると、男はよく、そうなるらしいし」
「そうなのか? 女は違うのか?」
「女は、状況にもよるかな。でも、別に無理矢理でもなかったし、乱暴でもなかったから、謝らなくていいよ」
「そうか――よかった」
ほっとしたように笑うと、イルグレンは、今度は優しく、アウレシアを抱きしめた。
「レシア」
「ん?」
「人を殺すと言うのは、嫌なものだな」
「――そうだね」
「だが、私は嬉しくもあったのだ」
言いたくなかったが、全てを話してもおきたかった。
この女戦士なら、自分の全てを受け入れてくれるように思えたからだった。
「命を奪っておいて、喜んだ。自分の身を自分で守れることを。もう、我慢しなくていいことを。怒りを、押さえずに剣を揮えることを」
怒りに任せて、全てを壊してしまいたい衝動。
感情の赴くままに、全てを巻き込んで、めちゃくちゃにしてしまいたい衝動。
今まで自分だと思っていたものは、たやすく揺らいだ。
なす術もなく飲み込まれ、混乱した。
同時に、自分というものがわからなくなった。
こんな激しい衝動が、自分の中にあったとは。