暁に消え逝く星
隊を離れては危険なこと。
それをエギルディウスが危惧しているなら、離れなければよい。
イルグレンはそう考えたのだ。
「今度から、稽古は馬車から離れずにすればよい。休憩の時間にここでする。私一人ではなく、護衛の何人かも交代で。皆の中に紛れてしまえば、遠目なら誰も私を特定できないだろう――どうだ、ファレス、リュケイネイアス」
話を振られて、ソルファレスとリュケイネイアスはやや意外そうに顔を見合わせる。
皇子の提案を最初は訝しげに思ったが、確かに道理には適っている。
馬車の中にいようが外にいようが刺客は来る。
ならば、身代わりとともにいてもいい。
年恰好が同じ者を護衛の中には入れておいたのだから、遠目なら確かに見分けはつかない。
そもそも、木の葉は森に隠すものだ。
しかも、剣の稽古をするなら、護衛の腕も上がり、一石二鳥でもある。
「ケイ殿に鍛えていただけるのなら、私に異存はありません。寧ろ好都合です」
「俺達は構いませんよ。皇子を鍛えたのと同じように彼らを鍛えればいいんですから。な、ソイエ」
リュケイネイアスが答える前に、アルライカが言う。
「――まあ、近くにいてくれれば楽だからな。別に苦にはならないな」
ソイエの言葉に、リュケイネイアスが肩を竦める。
「――だ、そうです。仲間がいいなら俺も皇子の提案には異議はありません」
「私としては、皇子を危険な目に合わせたくない。刺客が西から来たのなら、今後命の危険はますます高くなる。身代わりが剣の稽古をするのなら構わぬが、その中に皇子が入るのは承知しかねる。身代わりが死ぬのではなく、皇子が死んだら全てが無駄になる」
その無慈悲な言いように、イルグレンの顔が険しくなる。